デザワ世界軸とアニメ軸のやり取り

 長髪の桜屋敷薫に渡され、癖毛の南城虎次郎はシャツを着る。パツパツだ。明らかに胸囲のサイズが合っていない。ウェストサイズはギリギリか。一方、ヘビースモーカーの南城虎次郎は無難に着こなしていた。退廃的な自身の雰囲気に合わせて、着崩している。「チッ! 筋肉ゴリラが」長髪の桜屋敷が舌打ちをする一方、短髪の桜屋敷はムスッとしていた。閉じた扇子が口元を隠す。平行世界の二人は、このように異なる。
 苛立つ桜屋敷に、マッチョの南城が噛み付いた。
「お前が俺にこんなものを渡すからだろ!! 合わないんだよ! サイズがッ!!
「いっ!? ボタンを飛ばすな! 馬鹿ゴリラ!! 金を返せ!」
「って、お前が買ったのかよ!?
「当然だ。ゴリラが力を入れなければシャツの寿命はまだあったものの。哀れなゴリラだ」
「お前が俺のサイズに合ってないものを渡すからだろうが! 卑怯眼鏡!!
 ギャアギャアと子どもみたいに噛みつく。この桜屋敷と南城の喧嘩の一方で、ヘビースモーカーと短髪は静かな喧嘩を広げていた。パチパチと静電気のような火花が、交わる視線の中から生じる。短髪の桜屋敷はヘビースモーカーの料理人を睨んでおり、退廃的な雰囲気を漂わせる南城は表の顔が書道家である桜屋敷をニヤニヤ見下ろしていた。慣れた煙草の癖で、クイッと口角を上げる。スッと表の顔がただの書道家である桜屋敷が視線を逸らした。扇子は口元に当てたままである。
「呆れたものだ。こんな男が、あの店の料理人とは」
「相変わらず素直じゃないねぇ。そんなことをいって、俺の方を凝視してただろ?」
「阿呆か。呆れてものもいえなかっただけだ。おい。料理人の癖に煙草を吸うな」
「集中するときには、煙草を吸う方がいいんだよ。頑固頭」
「あ?」
「おっ? やるか?」
「誰がそんな安い挑発に乗るか」
 小学生の喧嘩を行う二人と違い、こちらは喧嘩の年齢が高い。互いの存在を確かめるように、噛みつくように殴り合いを行う喧嘩とは異なる。短髪の桜屋敷は理性を働かせ、煙草重症者の南城は噛みつく桜屋敷の様子を楽しむ。過去と現在が、殴り合う二人と異なる経歴を持っていた。年上の余裕であろうか。退廃的な南城は、煙草に火を付けないまま揺らす。「料理人の矜持くらい見せろ」閉じた扇子を持ったまま、短髪の桜屋敷は腕を組む。横目でジトッと睨む視線に「俺の勝手だ」と退廃的な南城は冷たく返す。
「このッ! 料理人なら客の望む料理くらいさっさと作れ!!
「んな簡単にできるものじゃねぇんだよ! 馬鹿眼鏡!! ロボットと一緒にすんな!」
「カーラはカーラだ! ボケナス!!
「そっちじゃねぇよ!」
 米神に青筋を立てて互いの襟首を掴みながら、怒声で罵り合う二名とは全く異なる。温度に差があった。過去や現在の経歴が違っても、なんだかんだいって隣に相手がいることが共通する。
 子どもみたいな喧嘩を繰り広げている最中、AI書道家の桜屋敷薫の右手首にあるバングルが光った。ピカッとAIが人間の言葉を話し始める。
『バッテリーの残量が残り一〇パーセントです』
「なに? 充電切れだと? フフッ、仕方のないヤツめ」
 パッと長髪の桜屋敷が態度を変える。バングルに内蔵した電荷が少ないことを告げた人工知能に、デッレデレの態度を見せた。この豹変ぶりにマッチョの南城はドン引きしてなにもいえず。開いた口が塞がらない絶句の表情を見せた。何度目の当たりにしても、桜屋敷のカーラ溺愛には付いていけない。
 幼馴染である南城がこの態度を取る。この一方で、平行世界の桜屋敷も似たような印象を抱いた。軽く己の平行世界の姿に引く。
「あっちの俺は、あそこまでAIに溺愛してしまうものなのか?」
 信じられないように青ざめる。こちらの桜屋敷は、AIは機械のように用いていた。AI書道家である桜屋敷のような愛情を持たない。
 この馴染みの桜屋敷の言葉に、退廃的な南城はなにも答えない。反応もせず、彼の隣で止められた煙草に火を付けた。
 プハッと煙を吐く。漂う煙草の香りに「おい!!」「煙草を止めろ!」「着物に臭いが付くだろ!?」「鼻が麻痺する!」などと、長髪とマッチョから非難轟々がやってきた。これを気にする退廃的な南城虎次郎ではない。
 スパーッと煙草を吸い続ける。「おい」短髪の桜屋敷が睨んでも、止める気配はない。
 上手に場に溶け込み交友関係も作る社交的な南城と違い、こちらの南城は人の目も気にせず好きに行う。人助けやメンタルケアやサポートも、そうしたものだ。性根の部分は同じでも、表出の仕方が異なる。
 一番別世界の人物だと示す人物は、煙草を片付けるケースを探し始めた。
「なぁ、灰皿を見かけなかったか?」
「知るかッ!」
「先に探しておけ! ボケナス!!
「喫煙するなら外でやれ!」
 非難轟々の数が増えた。