15:00
遅めの昼食を食べ終える。すっかり午後の三時を回っており、〝Sia la luce〟は一時閉店だ。ディナーの時間帯に向けて仕込みを始めた。その一方、桜屋敷は休憩を続ける。外へ出かけた理由は、四時に始まる書道教室ではない。書庵の冷蔵庫が空で、なにも飲むものがなかったのだ。通販で頼んでも間に合わない。カーラに以前頼んだ日時を尋ねれば、随分と前だ。それ以降、客に出す茶葉しか揃えていない。よって、今回の買い出しは事故の範疇である。(アップロードをしなければ)カーラのメンテナンスが、優先事項の上位にくる。不規則に備えるためにも、カーラの助けを要した。
クルクルと蜂蜜の入った紅茶を掻き混ぜる。紅茶──というよりハーブティーだろう。ミントと粉末にした蜂蜜を使用しており、睡魔の霧を晴らす。カフェインの代わりとなる、清涼剤となった。ついでに南城からも批評を求められる。見かけない紅茶を出された以上、なにか一言アドバイスがほしいのだろう。若い学生の頃から南城に試食係として捕まった桜屋敷は、自然とそう考えた。(とはいえ、単体で出されても若い女、よくて老人、金持ちの女しか)そこまで考えて、飲んだサイダーを思い出す。以前請け負った若い女性をターゲットにした依頼を思い出した。その連想した商品名の中に『ティーソーダ』なるものがあったはずだ。甘味は蜂蜜とこれ自体で充分である。
数口、味を見たあと厨房にいる南城に声をかける。
「昔流行ったタピオカティーでも始めるつもりか?」
「いつも使っているところから貰ったサンプルだ。輸入品を扱うと、そこでもサンプルを貰うらしい」
「ほう。たらい回しか」
「営業だろ。で、感想は?」
「女を中心にして一時的に流行るだろう。沖縄《ここ》は、いつでも暑いからな。シーズン的に長く続く。それと日が高く昇る時期に一番よく出る」
「思った通りだ」
「使うなら使用料を払え。先に言語化したのは俺だ」
「先に思い付いたのは俺だ。守銭奴眼鏡。だとしたら夏場に合わせてデザートの開発を進めるか?」
「ド阿呆。それが通用するのは観光客向けだ。期間限定と銘打っておけ」
「そのつもりだ。お前にいわれるまでもない」
「フンッ」
反抗的な態度を見せる南城に、桜屋敷もまた反抗的な態度を見せる。熱湯と溶け合う蜂蜜のように、二人は中々融解しない。例え粉末状に粒子を細かくしたとしても、溶けることは滅多になかった。それほど相反する。磁石のS極とN極のように、バチバチと火花を散らした。──といっても、現実に即すとガチッと数ミリの間隙を生じずくっ付くだけである。その強い力で引き合う磁石の力が頭突きや暴力の形を伴うわけだが──事実の磁石を話しても、決して双方が納得するわけでもない。その点は地平線の先まで平行線を続けた。
期待しないで、ティーカップの中身を飲み干す。女性向けか、はたまた外人をターゲットにしているからか。飲み干したミントティーは、胸に甘ったるい重さを残した。
(虎次郎だと絶対飲めないものだな)
そう独り言ちる。桜屋敷は南城が試飲するまで、絶対にいうつもりはなかった。
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