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懐かしい自販機を見て、南城は立ち止まる。昔、桜屋敷と一番上にあるボタンを押そうとした。今では、見上げた自販機を見下ろせる背の高さになっている。メンテナンスの手が届かないのか、枯れた落ち葉や土砂の汚れが残っていた。それはもう最近できたものというより、長年の積み重ねで金属の粒子に染みついたものであった。南城は心を痛める。あんなにすぐに思い出せるというのに、残酷にも古びた機械は経過した時の流れを告げた。だというのに、他の級友たちと違って、桜屋敷とは付き合いが長い。それも、幼い頃から全く変わらずの犬猿だ。「普通、疎遠になっていくものだぜ?」南城が話した桜屋敷の愚痴に、そう反応した級友の言葉を思い出す。顔はハッキリと思い出せないが、一般的に──有象無象の事柄で結論を導き出すと、そうらしい。普通は縁が切れるものだ、と。それがないのならば、そういうことじゃないのだろう。他人にいわれて気付くこともあるが、はいそうですかと素直に飲み込めないものも存在する。それが、桜屋敷との関係にも当てはまった。
信号機が赤に変わり、青の横断歩道を渡る。今はコックコートではない。出勤に着た服だ。桜屋敷に出したミントティーを飲んで、南城は気分が悪くなったのだ。誰だって、苦手な味を食べると気分が削がれる。口の中も、自前で作る分では洗い流せない。ここは、目に付いた店に入ってテイクアウトの品を食べるに限る。近場に限定した僅か二〇分以内に絞った制限時間の中で、南城は食べ歩きを開始した。持ち場から離れるのは、お互いさまである。
買った揚げ物を完食して、親指で拭いた衣をペロリと舐めた。
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